山岳ガイド ミキヤツ登山教室が紹介する、現場からの登山装備、技術論

新規ページ002


 2009年12月12日のアイゼン講習の模様です

 
左/今年は発達の遅い鉱泉キャンディーですが、手前に作った緩めの櫓は良い具合に凍りました
画像は練習するための斜面の新雪を、重機で掻いていただいて居るところ

右/「雪煙を上げる赤岳」決してガイドブックにあるような、初心者向けの雪山ではありません。急な斜面は一旦凍り付いてしまえば、確実なアイゼンワークが必要とされます

本日のお客様は男性のみで、赤岳が2組に、小同心に登るバリエーション組も一緒にシーズン初めの練習です
  
まずは「フラットフィッティングでの上り下り」
初めは硬い氷の上で腰が引けていた人も、右足、左足、と、重心をしっかり乗せることによって、アイゼンの爪が効くことが体で解ると、少しずつ傾斜にも慣れていきます

  
「フラットフィッティングでのトラバース」
足は決して同じ向きに揃えず、山側は進行方向に、谷側の爪先は傾斜に合わせて下に向け、全ての爪でしっかりと氷を押さえます。これにピッケルでバランスを取りながら、斜面をトラバー
ス。この時も、山側、谷側、と一歩ずつ重心の移し替えは着実に

この他、フロントポイント(前爪)を使った上り下り、斜めに登るフロントポイントとフラットフィッティングのコンビネーション、そしてピッケルで支えながら向きを変える、等のアイゼンワークを繰り
返し反復します。
更にその後はビバーグの方法、雪質判断といった項目を終えると、やっぱり小屋に帰るのは夕食が始まった頃になってしまいました。

 
時には時間が余れば、垂直の壁を体験していただく日もありますが、例え傾斜が変わっても、あくまで基本は上記の重心移動であり、動きとしては同じです。まず「足(下半身)の重心移
動」という、基本の動作が出来なければ、腕に頼るばかりで傾斜に負けてしまいます

 
左/ただ距離はありますが・・・         右/前日の練習の成果を実際に山で確認しながら、一歩一歩、赤岳の頂に近づいていきます

まずは足腰や膝を連動させた、スムーズな重心移動を身につけましょう。このことで、ただ「歩くだけ」という動作が、理論上いかに難しいことかが解り、ただ何気なく行っていた山での歩き
方をも、変えていくことが出来ます。

アイゼンワークは、なにも氷上に限定された動きではなく、雪上歩行はもちろん、夏山での歩行にも、全てに共通した動き方なのです。
夏山でのガレ場下りの苦手な方、そして後ろ足で蹴って進むので、よく滑ったり落石を起こしてしまうといった方には、特に必要な練習であるとも言えるでしょう。




 氷上での練習


 雪山で最も大事な技術は、アイゼン歩行技術です。
 アイゼンを付けて自由に、安全に歩くことが出来れば、滑落停止技術の出番はありません。雪山の「滑落」対策としては、積極的かつ有効なのが歩行技術であり、ついで滑落制動(停
止)技術です。当然雪山を始めるのであればこの順序で練習すべきでしょう。


 しっかりとしたアイゼン歩行技術を身に付けるには硬い斜面、例えば氷上で行う必要があります。
 柔らかい雪の上では、どれだけ練習しても、一歩ごとに簡単に足場ができてしまい、アイゼン練習にはなりません。
 これに対し、氷の上では足場となるステップはできず、アイゼンの爪を効かせないと立つことすら難しく、ごまかしの技術は通用しません。


 初めに、アイゼン歩行を考える時、頭に入れておかないといけないのが歩行のメカニズムです。
 歩行は単純に左右の足を交互に出して成り立っているのではありません。
 片足だけで立つことが出来るから、もう片方の足が自由に動かすことができ、その足を進行方向に踏み出し、そこに重心を移動することで、体は移動します。ここで再び、片足で立ち、もう
片方を進行方向に踏み出し、重心を移動させる。人間はこれを連続させることで歩行をしています。
 アイゼンを付けている時に限らず、登山中の動きで最も重要なのがこれら左右の足の動きとそこからのスムーズな重心移動です。

 しかし、これまでのアイゼンワークに関する技術書ではそれが欠如していたように思います。
 つまり、自然な歩行の動きを理解することなく、形のみのアイゼンワークの説明に終始していました。
 仮にアイゼンを効かすことができても、それを行いながら左右の足に重心を移動させること、そしてそれを連続させることが出来なければ、アイゼンを付けて歩くことは出来ません。
 ですから、以下では常にこの歩行のメカニズムを考慮した、アイゼンの使い方を説明していきます。

 「なぜ、そうしなければならないか」を知っておくことが重要です。


 斜面で滑らないようにするメカニズム

 氷雪の斜面を歩く時には、アイゼンを付けていようがいまいが、以下の二つの方法で成り立っています。
 なんだか難しそうですが、実際にやってみるとそれほどのことはありません。

@足場となるステップを作りながら歩く方法 ・・・ ステップ歩行
A硬い斜面では足裏全体の爪を使うことで摩擦を大きくすることで滑らないようにして歩く方法 ・・・ 摩擦歩行

 @の方法は、アイゼンを付けていない時や雪の柔らかい時、そして逆に傾斜が強く、硬い斜面を歩く時に前爪を積極的に使う場合がこれらに当たります。
 Aの方法は、それほど傾斜が無いけど、斜面が適度に硬い時に行う方法です。アイゼンの爪を刺して滑らないようにしているのではなく、摩擦を大きくしていると考えると、失敗が少なくな
ります。

 しかし実際にはこれら二つの方法を組み合わせたアイゼンの使い方をするのですが、練習をするために以上のように二つに大きく分類することにします。


 
@足場となるステップを作りながら歩く方法

 これはさらに、二つに分けることが出来ます。

 (a)前爪を使ったステップ歩行 「フロントポインティング」
  (b)足裏全体を使ったステップ歩行 「キックステップによるフラットフッティング」

 (a)フロントポインティングは、雪山では最も重要な歩行技術です。
 足場となるステップを作る場合、最も容易なのは前爪で穴を開け、その穴に前爪だけでのる方法です。これをこれまでのガイドブックではキックステップと読んでいましたが、この行為を意
識づけるためにも「フロントポインティング」としましょう。


 
 <上の写真、左足は爪先が入るほどのステップを利用して立っていますが、右足は自分の前爪を使って開けた穴に立っています。このとき「爪を刺している」と考えるので
はなく、開けた穴に乗っていると考えることが重要です。>


 この方法は雪山を歩く上では絶対に身につけておかなくてはならない技術です。
 なぜなら、これは斜面が硬く、そして傾斜の強いところで使う技術であり、他の歩行技術では行動ができない場所で使うためです。そういう意味ではこの歩行技術は雪山登山の保険的な
意味も持っているでしょう。

 この歩行の重要なポイントは、ステップにのってからの重心の移動が容易な点です。つまり、前爪さえ載せることができ、それが外れない限り、どのような方向へも自由に動くことができま
す。

 

<左の写真、右足がフロントポインティングですが、ここまで大きく足を上げても、そこに体をのせて移動(歩行)することが可能です。>
<右の写真、赤い服の男性は左足一本、前爪だけで急傾斜に立つことが可能となり、そのために余裕を持って右足で自分のステップを作ることができます。>

 そして、これを行う場合、体、そして手は常に斜面側に向いているため、ピッケルや手を積極的に使うことができ、それも安全に繋がります。
 急傾斜の雪や氷だけでなく、岩場での登下降や横移動ではこの方法で移動します。さらには絶対に落ちてはいけない場面でも使う技術です。

 さて、このように書いてくると、私の程度では必要ないと考える方もいるでしょう。
 しかし実際には冬の赤岳程度の山であれば、コンディションによってはこのフロントポインティングが出来るか出来ないかで生死を分ける場合があります。実際、2009年の冬の赤岳で
は、この技術が足りなかったためと思われる滑落死亡事故が起きていて、実際には他にも多くあると思われます。
 いずれにせよ、このフロントポインティングは、立っているのも難しいような傾斜、硬い斜面で移動する方法であり、雪山ではそれを想定することは重要な危機管理です。



 (b)キックステップによるフラットフッティングは、雪山ではメインとなる歩行方法です。
 まずは柔らかい雪を想定してみましょう。
 柔らかい斜面であれば、上から踏みつければ雪の中に足は埋まり、そこに立つことができるでしょう。これは上から踏みつけることでステップができるためです。このように柔らかい雪で歩
くのはとても簡単です。

 さて、次は中程度の堅さの斜面、つまり足裏全体が収まるほどのステップは作れないが、かろうじて靴底の片側半分数aだけが収まるステップが作ることができるという堅さです。
 この堅さでステップを作る時には、上から踏みつけてステップを作るよりも、靴底のエッジやアイゼンの片側の爪を利用して雪を削り取るようにしてステップを作ると、より安定したステップ
を作ることができます。



<右足はステップに乗っていて、左足もステップを作って歩こうとしていますが・・・・>



<上から踏みつけてステップを作ろうとしたために、ステップはできず、足はスリップ。>


 さて、ステップを作って、それにのることはそれほど難しくはないはずですが、ここから歩行(重心移動の連続)にうつしていくことが難しくなります。

 ステップにのっていて、そこに止まっている場合はそこから落ちることはないでしょう。
 しかし、ステップにのって、斜面と平行の方向に力を加えれば、ステップは壊れてそこから滑り落ちるかもしれません。また、足の片側半分だけステップにのっている時、ステップにのって
いない側に重心を移動させれば、当然そこから落ちてしまうでしょう。
 つまり、重心の移動の方向次第では載っているステップを壊してしまいます。
 重要なのはステップに載っている時には鉛直方向(地球の中心)に向かって加重するようにして、立つことが重要です。そのためにも上体はしっかりと起こし、体をまっすぐにして良い姿勢
で歩くことが重要になります。

 
<左は、小さなステップに片方の爪だけで立っていますが、もし、外側に加重してしまえばステップから足は外れてしまうでしょう。また、もし内側の爪を滑り方向(右下方向)
へ加重すれば、その小さなステップを壊してしまうかもしれません。>
<そんなときは右の写真のように、ステップを利用しつつ、後述の摩擦を利用して立つ方法を併用します>


 以上のように足場となるステップを作りながら歩く方法は二つの方法があることが理解できたと思います。
 ここで気づいた方もいるかもしれませんが、これらができる限り、雪山ではアイゼンを必要としないかもしれません。底の硬い靴で、しかもそのエッジ(角)が立っている靴で荒ればそれを利
用することでステップを作ることができます。
 爪先を蹴り込んでステップを作る方法。さらに、靴底の外側や内側のエッジで雪を削り取るようにしてステップを作る方法が考えられます。
 アイゼンを付ければ、これよりも更にステップを作りやすくなるわけであり、いずれにせよアイゼンの爪が刺さって滑らないようにしているというよりは、「階段にのっているから滑りようがな
い」と考えると良いでしょう。
 雪山ではステップが作れるのであればそれを利用するのが最も安全で楽な方法です。

 ステップ歩行は確かに、歩くだけでなくステップを作るという点で、動きが複雑になり疲れるかもしれません。しかしステップができないような硬い斜面で行ったり、ステップへののりかたを
間違えなければ、これほど安全な技術はないでしょう。状況判断と、スムーズなステップ作りが鍵となります。


 ※ガイドブックには下降の方法として「かかと」でキックステップをしながら歩く方法が紹介されていますが、これはあまりお勧めしません。

 <理由>
 上述の通り、上から踏み込むだけではステップができない場合が多々あり、また、そのステップも必ずしも水平でないため、そこに滑ることなく立つには、高度なバランスが要求されます。
 また、ステップを作るための踏み込みと、重心の移動が同時に行われるため、仮に硬い雪でステップができなかった時や、思っていたほど大きなステップができなかった時には即滑落に
繋がります。
 ステップを作りながら、しかもかかとで立つには、すこし後傾しないと、それは不可能であり、こういった点からもミスに繋がりやすくなります。

 
 多くの場合上の写真のように後傾になってしまい、足を出してもその足にしっかりと重心を移動することが困難になります。そうなれば尻餅をつきやすくなり、当然滑落の危険も大きくなり
ます。


 さらに、まっすぐ下を見て下降することは、かなり怖いことであり、多くの場合腰が引けてしまいます。そして、このかかとで下降する方法は、ある程度腰を引かないとバランスを取れない歩
行方法であり、そういう意味ではミスを起こしやすいといえます。
 まだ理由はあって、かかとで下降すると、足首の関節、さらには指の関節をほとんど利用できないため、とてもバランスを崩しやすくなります。これは爪先をあげてかかとだけで歩いてみる
と、そのバランスの悪さが実感できると思います。
 まだまだ、理由は続きます。
 まっすぐ下を見ていると、手は体の横にあり、手、そしてピッケルは斜面の近くにないため、とっさにそれを使用することができないばかりか、それを積極的に突きながら歩くことができませ
ん。
 以上の理由によって、かかとでのキックステップの下降には反対です。
 仮にこれを「教科書に載っているから」というだけの理由で行っているとすれば、それはかなり危険な行為なので、一度考え直してください。
 私達は横向きで下りることをお勧めします。
 その上でかかとと足裏の斜面側半分でステップを作ることをお勧めします。そうすれば上述の危険はかなり防ぐことができます。

 

 先の2枚の写真に比べて、体がこちらを向いています。そのため左足はサイド(小指側)のエッジを使ってステップを作ることになり、重心が左足の上にスムーズに移動します。



A硬い斜面では足裏全体の爪を使うことで摩擦を大きくすることで滑らないようにして歩く方法

 この方法は一般的にはフラットフッティングと呼ばれてきましたが、上述のステップ歩行に比べれば遙かに高度な技術です。
 雪ではなく、氷や岩など、明らかに足場となるステップを作ることができないほど硬い斜面を歩くとか、しかもフロントポインティングを行うには緩すぎる傾斜を移動する場合に必要となりま
す。
 この歩行を行う場合、考え方として重要なのは「摩擦を利用して滑らないようにしている」という点です。

 アイゼンを付けてフラットフッティングすると、爪を斜面に刺して滑らないようにしていると考えがちですが、それは間違いです。
 この技術はもっとデリケートです。
 摩擦を利用して滑らないようにしているため、摩擦をいかに大きくするかが重要であり、また、逆に摩擦をいかに小さくしないかも重要となってきます。
 
 摩擦を大きくする方法を考えてみましょう。
 アイゼンを付けて、軽く蹴り込んでアイゼンの爪の刺さりが深い方が当然摩擦は大きくなります。
 では、アイゼンの爪が入らないような硬い氷や雪、岩の上ではどうでしょうか。また、蹴り込むことが難しい傾斜の場合はどうでしょうか。
 そんな場合は自分の体重を使って踏み込むことで摩擦を大きくすることしかできません。
 そうなると、今度は摩擦をいかに少なくしないかが重要となってきます。

 体重70キロの人が踏み込んで摩擦を作る場合、しっかりと70キロで踏み込まないと効率が悪くなります。つまり、足の上にしっかりと立ち込むことが必要であり、このためには足から頭
の先まで、鉛直方向にしっかりと立っていないといけません。上体が曲がっていたり、足への乗り込みが弱いとそれだけ摩擦が作り出せなくなってしまいます。


 
<右足にしっかりと加重するために、体全体を使って重心を右に移動させています。これによって摩擦を大きくしています。>

 
 
<左の写真、斜面で爪先が上を向いてしまっているため、どうしても体が後ろに倒れてしまいます。それでも歩こうとすれば体が前傾してしまい、これでは強い摩擦は作れま
せん。>
<右の写真、体をしっかりと起こすために爪先が外へ向いてフラットフッティングをしています。足裏全体に加重できるような足の置き方をすることが重要です。>


 また、せっかく摩擦を作ったのに、進む時に後ろに蹴って歩くと当然摩擦が減ってしまいます。あるいは鉛直方向に立たずに斜面に体が近づいてしまっても同様に、摩擦は小さくなってし
まいます。
 
 これを登る時でなく、下降時に考えるとわかりやすいでしょう。
 フラットフッティングで下降する時に、腰が引けてしまっては踏み込む方向は斜面と平行の、つまり、滑る方向に踏み出して加重してしまうので摩擦は小さくなってしまいます。
 大股で足を踏み出しても同様になってしまうでしょう。 
 足の上にしっかりと上体がついてくるような、歩き方をしないと摩擦を大きくできなかったり、あるいはそれを小さくしてしまうために足が滑りやすくなってしまいます。

 いずれにせよ摩擦を利用して歩く方法は、硬い斜面でも安定して、しかも、かかとがついた状態で歩くという点と、ステップを作るという余分な動きをしなくても良い点で、比較的力を使わず
に歩くことができます。しかし、その長所がある一方で、非常にデリケートな歩行となり、高度な技術と状況判断が要求されます。


 アイゼンを付けてやってはいけないこと

 アイゼンを付けて歩行する時、やってはいけないことがあります。
 言葉がないので作りますが、「アイゼンの片効き」は、できるだけ避ける必要があります。
 アイゼンの爪は左右2列ありますが、このうち山側の爪だけで立ったり、立とうとすることはとても危険があります。ステップを作るために山側の爪を使う時以外はできるだけ避けた方がよ
いでしょう。
 また、人間は横方向に引かれたり、力が加わると、足首の関節や膝関節がその方向に耐えられないためにいとも簡単に体が倒されてしまいます。これを防ぐには爪先を力の加わる方に
向けることでしか対応できません。
 ですから、横方向の力が加わる時(トラバースで落ちないようにするとか、下降のとき)にはどちらかの足はそのフォールラインに爪先を向けている必要があります。


 
 実際のアイゼン歩行

 以上のように斜面で滑らないようにする方法は大きく分けて二つの方法があり、それぞれの長所と短所があることが理解できたと思います。
 実際のアイゼン技術は、これら二つの方法と、歩行のメカニズムを上手く組み合わせて成り立っています。
 そしてこれらを理解するためにはある程度硬い斜面で練習する必要があります。

 ・フロントポインティングでの登高、下降、トラバース
 

 左の写真のように、膝を斜面から離して立つことで、小さなステップに鉛直(真下)方向に加重します。これが、右の写真のように膝が斜面に近づきすぎるとかかとが上がってしまい、加重
方向が滑り方向(斜面と平行で、この場合は右下方向)になり、自分の載っているステップを、その爪で壊してしまったり、ステップから足が外れる原因となります。
 この歩行は雪山では保険的な意味も含めて、確実に、しかも正確にできなくてはならない技術です。

 ・フラットフッティングでの登高
 摩擦を利用して斜面を登ります。このとき、上向きに爪先を開いて歩くと歩きやすくなります。比較的緩い斜面で歩く技術です。


 ・ステップ歩行とフラットフッティングの併用(以降、フラットフッティング)

 上述のフラットフッティング出歩く時、完全にフラットに置くのではなく、アイゼン左右2列の爪の親指側で軽く斜面を削るようにしてフラットフッティングをすると、ステップを作ることができ、あ
る程度傾斜を落とした状態でのフラットフッティングとなります。 
 写真の場合、山側の爪が深く刺さり、谷側の爪が浅く刺さっています。これによって実際に立つ部分の傾斜を緩くすることができます。
 実際のフラットフッティングはこのように、ステップ歩行と組み合わせることが多く、これがスムーズにできるとトレースのない斜面を歩く時にも力をセーブできます。
 以降、フラットフッティングと記述があるものは、できる限りこの方法をとることが必要です。

 ・スリーオクロック(ナインオクロック)
  
 片方の足はフラットフッティング、もう片方はフロントポインティングで登ります。
 フラットフッティングは難しい技術で、傾斜がきつくなるとこれで歩くことは困難かつ危険を伴いますが、上手くできればかかとが下に着いている分だけ楽な歩行が可能です。これに対しフ
ロントポインティングは、きつい傾斜でも安定して歩くことができますが、つま先立ちになるため疲れます。
 これらの短所をうち消し、長所を利用する歩行がこのスリーオクロックです。
 フラットフッティングが難しいのは、上を向いてそれを行うことが原因です。ですから、このスリーオクロックを行う時はフラットフッティングが行いやすいようにフラットに置く足の爪先方向に体
を向けて登ります。写真では体全体が左を向いているのが解ると思います。
 こうすることで無理なくこの歩行が可能になり、かつ、ピッケルを持っている手が斜面に近づくというメリットも生まれてきます。
 当然、左右どちらの足でも行える必要があり、それを時々入れ替えることで傾斜の強いところでも比較的楽に歩くことができます。
 大きな山を登る上で、必ず身につけなくてはならない技術です。

 ・フラットフッティングでのトラバース
 
 山側の足は進行方向に爪先を向けてフラットフッティングをすることで進み、谷側の足はフォールライン、つまり、滑落した時に落ちる方向に向けてフラットフッティングをすることで安全を確
保します。
 このように左右の足はそれぞれ別の役割のために働いていると考えることが必要です。
 この歩行を行う時、難しいのは山側の足で、写真左では左足の上に重心があることが解ります。その上でフラットフッティングを可能にするためには膝が内側に入る必要があります。
 また、右の写真は左右の足が一本のライン上を歩いていることが解ります。これによって上体は左右に揺れることなく歩くことが可能になり、かつ、滑落方向に重心を移動させるような危
険な状態を避けることができます。
 これは難しい技術です。
 滑落の多くはトラバース中に起きていることが多く、これができないことが原因でしょう。
 

 写真の場合、山側(左足)の膝が外に向いていることが解ります。このため足裏全体どころか爪すら斜面をとらえることができません。結果は下の写真の通りです。




 ・フラットフッティングでの下降(ステップ歩行による下降も含む)

 ガイドブックなどでは下降はまっすぐ下に向いて下りるとか、爪先は軽く開いてフラットフッティングをするとか書いてありますが、僕は反対です。
 まっすぐ下を向いて下りることは体にとても大きな負担が掛かります。アイゼンを付けていようがいまいが、雪があろうがなかろうが、下りでは横向きが最も理にかなった歩き方です。
 理由は、左右の足への重心移動がスムーズに行えるという点でしっかりと加重することができ、かつ膝への負担が少なくなることで筋力をそれほど使わずに下りることができます。

 写真の場合、右足の上に上体がのっていることが解るはずです。ここから下りるためには左足を下に出していくのですが、このばあい、股関節を積極的に利用することで右足にのったまま
腰を落とすことが可能であり、つまり、右足に重心を残したまま左足を下に下ろすことができます。
 これがもし、まっすぐ下を向いていたとすれば、左足を出した時には重心は右足には残らず左足に移動してしまうはずです。むりに重心右足に残したまま左足を下ろすと、膝に大きく負担
が掛かります。

 さて、以上のように横向きの下降を進めますが、当然フラットフッティング、ステップ歩行を上手く使い分けなくてはなりません。
 
 
 ・斜面での向きの変え方(フラットフッティングとフロントポインティングを利用)
 これはオプションですが、知っておくと重宝します。上手くフロントポインティングとフラットフッティングを使って、その場で自由に向きを変えることができます。



 アイゼンの引っ掛け

 アイゼンを付けての歩行で最も怖いのが転倒です。スリップ、滑落は予測できて対処しやすいのですが、転倒は体が転がりやすいだけにその後の対処が難しくなります。
 統計をとったわけではありませんが、転倒の原因で最も多いのはアイゼンの引っ掛けだと思います。つまり、自分の足にアイゼンを引っ掛けるのです。
 アイゼンを引っ掛けないために、足を「がに股」にして歩くとか言われますが、これはまったく正しくありません。
 がに股に、つまり膝が外に向いてしまうと、足裏全体は内側を向いてしまい、当然爪を引っかけやすくなります。

 正しくは左右のかかとを15〜20p程度離して歩くようにすればよいのですが、それには左右の足の重心移動がスムーズに行えなくてはなりません。あるいは逆に、重心移動がスムー
ズに行えれば自ずと左右の足は離れていくように思います。

 「重心移動がスムーズにできない歩き方」=「左右の足が一直線上を進む歩き方」になり、アイゼンの引っ掛けに繋がるのです。
 ですから、アイゼンを付けた時にはことさら重心移動に気をつけて左右の足を離す必要があります。これらを行うにはやはり安定したアイゼン技術、重心移動が必要です。


 滑落停止

 滑落のメカニズムは以下のとおり。
@スリップ、もしくは転倒 
A滑り始める 
B滑り初めてからどんどんスピードがつく 
C意識を失うか、岩に当たっておしまい。



 初期制動は@とAの間で行い、体を滑り出さないようにする方法です。よく行われている滑落停止の練習はAとBの間で行うものです。
 このように見れば一目瞭然なんですが、もっと練習すべきは初期制動だというのが解ると思います。あるいは、滑落停止の技術は初期制動と連続して行わなくては意味がないということ
です。



 また、八ヶ岳など日本の山は滑落停止技術を発揮させるには斜面が狭すぎます。解りやすく言えば、転んでしまったり、スリップして滑り始めてしまったら、即、岩に激突する場合が多い
ということです。
 あるいは激突しなくても、崖を転がり落ちてしまうことが多いということです。だからこそ、滑り出さない技術である初期制動、もっと言えば、転ばない、スリップしない技術こそ身につけるべ
きです。



 そんな訳で、私達のコースでは初期制動や、氷上でのアイゼンワークを重視して練習を行っています。
 初期制動の方法は簡単。転んだり、スリップした瞬間にピッケルのシャフトか、ピックを刺すのです。簡単なんです。でも、知っていないと出来ないんです。
 前向きだろうが、後ろ向きだろうが、横向きだろうがやることは一緒です。
 また、重要なのは今いる状況で、どういうスリップの仕方をするか、転倒をするのかを常に考えながら歩くことです。
 予想できていれば、それにも対処できますが、問題なのは予想とは違ったことになることです。






トップへ
トップへ
戻る
戻る



山岳ガイド ミキヤツ登山教室は、夏山、冬山ともに国内では八ヶ岳、穂高岳、槍ヶ岳、剣岳、北岳、甲斐駒ケ岳など日本全国で、海外ではヨーロッパのシャモニ、ドロミテで山岳ガイド、登
山教室、クライミングスクールを行っています