登山靴の性能を引き出すサイズ選び (ただし雪山用は除く)
どんな種類の登山靴であれ、その性能を引き出すにはサイズ選びが重要です。どんな靴を履いても、しっ
かりとフィットした靴でないと、その性能を引き出すことができません。
爪先で小さな段差に立った時、靴の先端まで指が届いていないと全く力が入らず、靴がたわんで段差か
ら滑り落ちてしまいます。
指の付け根がソールの曲りと一致しないと、歩行に合わせて靴がたわまず、疲れてしまったり、バランスを
崩しやすくなります。
下りで靴が緩いと、つま先が靴の先端に当たってしまい、爪をつぶしやすくなります。
いずれにせよ、靴は指一本入る余裕を持つサイズではなく、ピッタリサイズ、もしくはそれに近いサイズを
選ぶことが必要です。
ピッタリサイズを履いても痛くはない・・・はず
ピッタリサイズを積極的に選ぶ理由は理解できても、実際にそれを実行できる人はほとんど居ないと思い
ますが、最大の要因は「痛み」でしょう。しかしこの痛み。靴の足型が自分の足の形に限りなく近ければ痛く
ないのです。
強く当たる場所が「点」で当たっていると強い痛みを感じますが、足型がある程度あっていると「面」で当た
るため、圧迫感はあっても痛みを感じることは小さくなるはずです。
新品時には少し当たって痛い靴も、足に馴染んでくれば痛みを感じなくなる経験があるはず。新しいうち
は強く当たる場所があり、点で当たっていた靴も、使い込むうちに馴染んできて面で当たるようになるため
です。
要は新品時から「点」ではなく均等に「面」でフィットする靴を探せばよいのです。
サイズ選びよりも、先ずは足型に合った靴を探す
そんな訳で、先ずは靴を選ぶ際は足の実寸を必ず計ってください。
そして、この実寸に基づいたメーカーの適正サイズの靴を、可能な限り全ての種類の靴を履いてみましょ
う。
この時、何処かが当たって痛い場合は、サイズを大きくするのではなく、他の靴を履いてみましょう。
最終的には妥協が必要なのですが、必ずあなたの足型に近い靴が見つかるはずです。
試すべきテスト
ピッタリサイズを履いた時の靴の性能の違いを実感してもらえるテストがあります。
靴の性能を計るのにわかりやすいので、靴選びの基準作りのためにも多少痛くてもやってみましょう。
@できる限り小さな段差に爪先で立つ。
テクニカルシューズなら5ミリ、登山靴なら2センチ程度の段差に立って、靴の接地点からかかとまでが完
全に浮いた状態(つまり足の指の付け根が着地していない状態)を保ってみてください。もちろん手で体を
支えたり、バランスを取っても構いません。
大きすぎる靴だと、足の指に力が入らなかったり、ソールの曲がるポイントと足指の付け根の位置がずれ
てバランスがとれなかったり、そもそも立つことすらできない状況もあります。
逆にピッタリサイズでこれをためすと、驚くほどの足裏感覚で、しかも足指に力を集中できることでバランス
が良くなります。
A下り斜面で片足でブレーキを掛ける
テスト用の下り斜面があったら、少し前に飛ぶように、片足で、しかも爪先に荷重する意識で足裏全体で
着地してみてください。
登山中、下り斜面では足指を踏ん張るために指が曲がった状態になりますが(※1)、このとき指の関節
が当たって痛いことがあります。
ピッタリサイズを履くと、足の爪が当たって痛いと思われがちですが、実際にはサイドのサポートがしっかり
としている状況では、しかも指が曲がって踏ん張る状態になるため、爪が当たるのではなく、曲がった指が
立った時に関節が当たって痛くなります。
これが痛い場合はサイズが小さいのではなく、靴があっていないのです(※2)。
(※1)下り斜面で滑らないように歩くコツは、踵から足を降ろすのではなく、足裏全体で着地、しかし重心は
指の付け根から足指の先端に持ってくると滑りにくくなります。この様な歩き方ができていれば自ずと足指
は曲がっているはず。逆に言えば足指を曲げるように踏ん張りながら歩くと、足裏全体で着地し、重心は足
指で踏ん張る位置にあり、斜面でも滑りにくくなります。
(※2)しかし、最近では指の関節が当たる部分(靴のベロの先)を、伸縮性のある素材が使われている靴
が登場しています。これによってピッタリサイズを履いても多くの人が合わせやすくなっています。
足型が合う靴を見つけたら、もうワンサイズ下の靴も試してみる
ある程度足型が近い靴を見つけたら、もう一つ下のサイズの靴を履いてみましょう。選んだそのサイズが
本当にピッタリのサイズか確認するためです。
足型があっていれば、圧迫感があっても思っているほど痛く感じないでしょう。
これで本当にその靴があなたの足型にあっているかが分かるはずです。
サイズを選択するときに考慮すべきポイント
確実に足に合っている靴が見つかったら、ようやくサイズ選びですが、考慮しないといけないポイントがい
くつかあります。
・靴が馴染んできたときの緩み具合
・インソールを替えたときのフィット具合
・靴下の厚み
靴は使用とともに小さくなるということはなく、縫い目や生地自体が伸びて少し緩くなることで足に馴染ん
できます。この馴染による靴の緩みもある程度考慮しなくてはならない重要なポイントです。
また、付属のインソールはオマケ程度の靴も多く、それを変更するのであればそれによるフィット感の違い
も考慮しなくてはなりません。
試着したときの靴下の厚みもサイズ選びでは大事なポイントです。おススメは常識的な範囲での比較的
薄めの靴下を使って試着することです。
靴は新しいうちは保温材などがしっかりとしているのですが、使用とともに薄くなってきます。この時に靴下
を厚くすることができればフィット感を維持する事ができます。
また、薄手の靴下をはいた方がよりダイレクトに靴のフィット感を確認できます。
登山中のむくみはそれほど気にしなくて良い
靴を選ぶ際のむくみは、ピッタリのサイズを選ぶためにある程度気にしなくてはいけませんが、登山中のむ
くみを考えて大きめのサイズを選ぶ必要はありません。
足型にあっていれば、多少足がむくんだ状態で靴を履いても靴ひもで調整できる範囲でしょう。
最終的には妥協が必要なサイズ選び でも理想のある妥協を!
自分に合った足型の靴を探しても、実際には靴はせいぜい十数種類しかないため、完全に足に合うもの
を見つけることは不可能です。しかし少しでも自分の足型に近い靴、そして自分の使用目的に適した靴が見
つかったら、上述の基準を気にしながらサイズ選びをしてください。
足型を近づけてからサイズを選ぶようにすれば、間違いなくこれまでと違った靴、サイズが見つかるはずで
す。
日本人の靴選びが上手でない理由
日本人は靴選びが苦手というか、そもそも考え方が間違っています。
歴史的に日本人が靴というものを手にしたのは明治時代ではなく昭和、しかも戦後です。
多くの日本人が普段の生活の中で、そして靴を納得して使うようになってからまだ70年しかたっていませ
ん。これでは靴というものを理解できないのは当然です。
さらに、人が生まれて初めて靴を履くとき、そして初めて靴を買うとき、その選び方を教えてくれたのは、ほ
とんどの人がその親であるはずです。そして靴選びを教えてくれた親は更にその親に教えてもらっているは
ずで、3世代程度しか伝えられていない知識です。
これではまだ合理的ではない知識が伝えられていてもおかしくはありません。
この戦後70年しかない靴文化、3世代程度しか経ていない伝えられた知識は、お店の人も同じことです。
まずは自分がしっかりとした基準をもって靴選びをしてください。
ピッタリサイズの靴を積極的に選ばないスポーツはない
靴を使用する運動で、ピッタリサイズの靴を選ばないスポーツはありません。
もちろん、その運動をどのレベルで行うかという違いによって緩めの靴を選ぶことはありますが、自分のパフ
ォーマンスを上げるために、あるいはミスをしたくない状況で使う運動で緩めの靴を積極的に選ぶことはな
いでしょう。
登山はミスをしてくない状況で、自分のパフォーマンスを確実に発揮することを求められた運動です。
靴を妥協して選ぶことは辞めましょう。
<足の小さい人が靴を選ぶ際の注意点>
足のサイズの小さい人、体格の小さい人は登山靴選びには特別な注意が必要です。
それは、同じメーカー、同じモデルの23センチと27センチの靴では、その靴の剛性がサイズによって全く違ってくるた
め、メーカーがその靴に求めた使用感、性能が違ってきます。
サイズは違うのに、同じ生地、同じソールの厚さで靴を作れば、当然その性能、性格は大きく違ってきます。
27センチの人がその靴をつま先立ちすれば、ソールが足の指のところで撓ませることが出来ても、23センチの人が同
じ靴を履いてつま先立ちしても靴はそう簡単に撓まないでしょう。
足の小さな人は、少し柔らかめの靴を選ぶ必要があります。
もし体格の小さな人が硬い靴を履いてしまうと、歩いている状況に合わせて靴を撓ませたり、捻らせたりすることができ
ず、バランスがとても悪くなってしまいます。
誰かが「これは絶対によい靴だ」といっても、それは誰かが履いたそのサイズでは良くても、小さな靴には当てはまりに
くいことを覚えておいてください。
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