山岳ガイド ミキヤツ登山教室が紹介する、現場からの登山装備、技術論  

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山岳ガイド・ミキヤツ登山教室 久野弘龍・加藤美樹
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 スメアリング

 クライミング中、手がかりはあるけど足場がないとか、遠いということはよくあります。
 しかし、手がかりは既にある状況ではその大きさ、方向次第で、それは今から行うべき登り方のヒントになります。

 手がかりはあるけど足場がないという状況では多くの場合は「スメアリング」という技術でその場をこなして、次の手がかりを 取ったり、足場へ移動してしまいます。
 そんな魔法のようなクライミング技術、スメアリングをここでは説明します。

 ジムで登れるけど、外岩は苦手な方。スメアリングをもっと理解してください。


 @スメアリングを使う状況

 ・足場が小さい
 ・足場がない
 ・足場の距離が遠い


 クライミングをしていると、足場が小さかっ たり、遠かったりしますが、そんな時はスメ アリングという技術を使って、ごまかしてしま います。






Aスメアリングはクライミングの必須 技術


 左の写真の様に、いつも大きな足場 に立てるとは限りません。
 そもそも、まっとうな考えを持った人な らやらないことをするのがクライミングで す。


 そんな普通の人がやるはずもないクラ イミング中は、「足場がない!」とか、 「足場が遠い!」なんて事は当たり前な ので、そんな時はスメアリングをしてゴ マカシテしまいましょう。


 「足場がない」という状況を、「次の良 い足場までの間が遠い」と考えると良 いかもしれません。
 つまり、スメアリングをずっと続けるの ではなく、良い足場と足場を繋ぐ技術と してとらえることが必要です。
 そもそも足場が小さかったり無いとこ ろに立つのはとても怖いでしょう。


※難しルートはスメアリングが連続する からといっても良いかもしれません。

Bスメアリングをする状況と条件


 左の写真の様に遠い足場に一気に足を 上げるのではなく、軸足(体を支える右足) をスメアリングで少し高い場所に位置する ことができれば、次の足場へ左足を上げる 距離が縮まり、足を上げるのも、立ちこむ のも楽になりますます。


 つまりスメアリングをする状況というの は、それを使って少し体を高い位置にして、 次の足場に足を上げたり、次の手がかりを 掴むためです。
 だからスメアリングをして、しっかりと立ち 上がることはなく、その目的を果たせる位 置まで体を上げるだけの技術です。


 ただしスメアリングはどんな時でもできる 訳ではありません。
 スメアリングは体を岩から離して行う技術 なので、ある程度の手がかりが必要になり ます。
 だから、大きな手がかりでスメアリングを する時は易しいルート、小さな手がかりで スメアリングを要求されるときは難しルート といえます。
 また、スメアリングが連続するようなルー トも難しいルートです。
 



 


 Cスメアリングの実践 体の使い方


 スメアリングは小さな段差や何もないと ころで足に立つ(体を支える)ために、靴 の摩擦を「作り出す」ことで行う技術です が、摩擦を作り出すためには、自分の体 重を利用します。


 緩傾斜では体を壁から離して立つこと で、全体重を足に乗せて摩擦を作り出し ます。
 しかし、左の写真の様に足場にまっす ぐ立つことができないときには、意図的に 体を壁から離して、振子の力で戻ってくる 力を利用して靴が岩に押し付けられる状 況を作り出して摩擦を作り出します。
 


 Dスメアリングの実践 足の使い方


 体を岩からしっかりと離すことができれ ば、振子の力で体が岩の戻ろうとする力 が働きますが、その力を使って「靴をたわ ませる」ことがポイントです。

 靴をたわませることができれば、もとに 戻ろうとする反発によって更に摩擦が大 きくなり、足が滑りにくい状況を「作り出 す」ことができます。

 靴をたわませるためには、「体を離す」 以外にもう一つ、「爪先をまっすぐに前に 向ける」ことも重要なポイントです。(体を 外に出すことで、振子が元に戻ろうとする 力の方向に爪先を向ける)
 爪先が横を向いてしまうと、「ねじれ」に なってしまい、反発による摩擦が無くなっ てしまいます。


 クライミングシューズはシューズの中で 指が曲がった状態で履くのですが、これ は靴をたわませたときに、強く反発させる ためであり、指が延びた状態ではこの反 発は小さくなってしまい、摩擦が小さくな ってしまいます。

 モチロン足の指が強くて自分の力で靴 のたわみを押さえることができる人も居る かもしれませんが、疲れてしまうか指を痛 める結果になるでしょう。

 
 ※以上の理由から、クライミングシュー ズは指が曲がった状態で履くのが適正 サイズなのです。そして岩を登りやすい 登山靴「テクニカルシューズ」は、足の指 が延びた状態でもたわみによる反発を作 り出すために、ソールが硬いのです。
 このため、岩を登るのは得意でも、歩く にはソールが硬すぎてバランスを崩した り、疲れてしまいます



 E足を段差に掛けるのは×


 小さな足場へ足を置く場合、段差に足を 引っ掛けるようにつま先を横に向けて、足 の内側のエッジを載せようとしますが、これ はクライミング技術的には×です。

 爪先を横に向けてしまうと、靴がねじれる ことはあっても、たわむことはなくなり、反 発による摩擦力の増加は見込めません。

 
 小さな段差に立つ場合、足を掛けるので はなく、段差の縁(角)にスメアリングをする イメージをもって爪先を前に向ける必要が あります。
 そうすると、靴がたわんで段差の角に靴 が押し付けられて摩擦が増えるだけでな く、、実際には段差の上面にソールが押し 当てられて、滑りにくくなります。





 F爪先が横を向くと、岩に体がくっつ いてしまう


 爪先を横に向けて段差に足を掛けようと すると、Eの説明の様に摩擦が小さくなっ て滑りやすくなるだけでなく、体も岩にくっ ついてしまい、振子のエネルギーを使え なくなってしまいます。

 また、体が岩にくっつくということは、足 場が見えなくなるばかりか、足を上げる空 間も無くなってしまうため、必然的に足を 上げられる場所が体の外側に限定されて しまいます。
 これによって右足は体の右側、左足は 左側、しかも爪先は外側に向いてしまう、 典型的な「悪い正対」クライミング(※)と なってしまいます。

 正対クライミングがいけないわけでは無 いのですが、つま先が外へ向くと足が滑 りやすくなるばかりでなく、体が岩に完全 に正対してしまい体の向きを変えるのも困 難となるため、視野が狭くなり、手がかり や足がかりを見つけるのすら困難になり ます。



 ※1 正対クライミングでも、良い正対と 悪い正対があります。
良い正対は爪先はスメアリングをするため に岩の方へ向き、体の前に空間を作った 状態を保っています。これに対し悪い正対 は、つま先がそれぞれ外を向いてしまい、 岩に体がくっついてしまいます。


 G爪先を前に向け、岩から膝を離す

 
 爪先を岩に向けて、スメアリングを行う体 制を取ったら、岩を前方に押し出すような イメージで体を持ち上げる。

 この時、腕はしっかりとのばした状態か らスタートして、膝を岩から離した状態を保 つことを意識すると足が滑りにくくなりま す。
 スメアリングしている足に「乗り込む」の ではなく、足で岩を押し出して体を外に保 つ感覚が必要です。もちろん、体が上に上 がるにつれて腕は曲がっていくのですが (※)、膝はしっかりと離した状態を保つこ とが重要です。

 左の写真は左足で体を少し上げてから 青矢印の様に右足を上げることを目的とし てスメアリングをしています。

 スメアリングは足場に載りこむ技術では なく、ごまかしで足を置いている技術だと いっても良いかもしれません。
 ごまかすために、ある程度手の力は必 要です。
 だから、スメアリングをする時は躊躇しな いで、覚悟を決めて短時間で行いましょ う。


※ GとHの写真では、スメアリングと足 への乗り込みのために体が上がっている のですが、腕の角度が変わっていないこ とに注目してください。
 水平なホールドを持っている場合、体の 上昇とともに肘まで上がって、腕の角度が 変わってしまうと、手がかりが滑りやすく なります。
 スメアリングをする際、手がかりの掛か り具合によってはこのように肘をしっかりと 落とし続けて、手を引く方向が変わらない ようにする工夫も必要です。

 Hスメアリングは目的をもって行う
 スメアリングはその小さな、あるいは何 も無い足場に立ちこんで完了する技術で はなく、体を少し持ち上げて次の足場にも う片方の足を運んだり、あるいはそのまま では届かない次の手がかりへ手を届かせ て完了する技術です。

 繰り返しになりますが、スメアリングは 完全に足に乗り切ってしまい体が壁にくっ つくと、摩擦を作り出す力が弱くなり、足 が滑りやすくなってしまいます。
 このためスメアリングを行うときは、どの 程度まで体を上げて、そこで何をするかを しっかりと意識して行わなくてはなりませ ん。目的を果たすまではしっかりと膝を岩 から離した状態を保ち続けることが必要で す。

 今回の左の写真ではスメアリングで体を 持ち上げて、右足を上げるというのが目的 でした。ですから、体は左足には完全に 乗り切っていないことが分かります。
 また、次に上げた右足にも体はまだ完 全に乗っていません。これは右足に完全 に立ちこむと肘が上がってしまい、手がか りを引く方向がよくかかる下方から、手が 滑る手前側に手を引いてしまう可能性が あるためです。

 「右足を上げるため」に手がかりを使って 「左足をごまかして(スメアリングして)」体 を持ち上げました。
 そのため右足を上げた時点では「右足 に立ちこむための手がかり」を持っていな いことになります。ですから、この後はこ の体制のまま次のホールドを取って、右 足に乗り込むことになります。
 
 




Iダイアゴナル

 スメアリングをするためには体がしっかりと足に荷重できる体制が必要です。
 このために右手と左足、左手と右足で体を支える「ダイアゴナル」な手足の使い方が必要です。

 スメアリングは体を壁から意図的に話す技術なので、ダイアゴナルが崩れると、つまり、左手と左足、右手と右足でスメアリ ングをしようとすると、体が回転して壁から体が離れて行ってしまいます。

 
山岳ガイド・ミキヤツ登山教室


 山岳ガイド・ミキヤツ登山教室は、加藤美 樹、久野弘龍がそれぞれ主催する個人ガイド の集合体です。
 
 日本山岳ガイド協会認定のもと、山岳ステー ジ2(登攀ガイド)、国際山岳ガイド資格を保有 し、ガイド業を行なっています。




 私たちは、ガイド業を通じて技術や道具、登 山情報を、過去の慣習や過去の経験ではな く、現在の経験に基づいた現場情報を提供す ることで、登山をする方が安全に楽しめること を目標としています。

 ガイド業務中には皆様の安全を図ることはも ちろん、、講習会や行動しながら登山技術を伝 えることで、ご自身で行く登山をサポートしま す。

 これらのことを実現するための手段がガイド 業であり、皆様に提供する情報を得るために 現在もプライベートでのクライミングを続けてい ます。 




主なガイド・フィールド

 海外

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加藤美樹・久野弘龍

日本山岳ガイド協会認定
国際山岳ガイド連盟認定
八ヶ岳山岳ガイド協会所属

〒408−0041 
山梨県北杜市小淵沢町上笹尾3331−711  
メール:mikiyatsu2008@gmail.com  
電話:0551‐36‐6345 
携帯:090‐7195‐6134(久野

ブログ:山でボナペティ!  
ホームページ:http://mikiyatsu.jp/




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山岳ガイド ミキヤツ登山教室は、夏山、冬山ともに国内では八ヶ岳、穂高岳、槍ヶ岳、剣岳、北岳、甲斐駒ケ岳など日本全国で、海外ではヨーロッパのシャモニ、ドロミテで山岳ガイド、登
山教室、クライミングスクールを行っています