歩行技術 中級編
街での歩行と違い、登山中に上手く歩くためには、以上のように別の歩行技術が必要です。
しかもその技術を使うためには、どこでそれを使うか見分けないといけないですし、実際に実行する
段階でも確実に足を置くためにしっかりと足を置く場所を見続けないといけません。
行動中の目線は次の足を置く場所へ、視線は目線を中心に全体を見るようにする
上の写真、青いところは石も転がっていなくて、足を置きやすい所ですが、登山に置いては必ずし
もそこが最も適したところだとは限りません。
赤いところは僕が実際に足を置いたところで、更にその中のピンクのところが特に意識している場
所で、ここにピンポイントで足を置きに行きます。
その為に、目線は一歩毎にこの赤印辺りを見る必要があり、その中心はピンク印です。
作戦どおり、ピンク印に足を置いています。
この時、足のどこで立つかを意識することが重要で、多くの場合、中指の付け根を意識すると良い
でしょう。
じっさい、登山の歩行中は足裏全体が地面に接地していることが多いのですが、靴の中では色々
な場所に力が移動していくように歩く必要があります。その為にも、足裏のどこで立つか、意識があ
った方が上手に歩くことが出来ます。
重要
水平の場所での歩行は踵のちょっと外側から着地し、拇指球に重心が移動してそこから親指に抜
けていくような歩きになりますが、登山中は、踵と中指の付け根が同時に着地するぐらいの意識を持
った方が良いでしょう。
特に下りでは踵から着地しようとすると、足だけが先行して、体が遅れてしまいます。このため足に
しっかりと加重できなくなり、摩擦を大きくすることができず、スリップしやすくなってしまいます。
踵と中指の付け根を同時に着地するような歩きをすると、体が常に足の上にあるために、スリップし
にくくなります。
しかし、この歩きを急斜面でやろうとすると、真っ直ぐ前を向いたままではできません。その為に登
山中は横向きに降りたり、一歩毎に向きを変える必要があるのです。
上と下の写真の場合、踵と中指の付け根が同時に着地する為に、石を使っています。
爪先側だけ石を踏むことで、足が水平になりスリップしにくくなるので楽に歩けます。
次の足も、予定どおりの所に置いています。
目線は一歩毎に次の足場を見続けて動き続けます。そうでないと、こんなにピンポイントで足を置く
ことが出来ません。
上の写真は足場がもう少し悪くなった時です。
次に置く足場は赤印の所ですが、その中のピンク印に中指の付け根を置くようにします。
写真中の右上の絵。足が水平になるように爪先が少し上がった状態を作るためです。
足が着地するまで、目線が離れないようにします。何故なら、ここで足を置く場所が少しでもずれて
しまうと、足を捻って転倒する可能性があるからです。
ピンクの線が、岩の最も高くなっている位置で、それを指で掴むようにするために、そのちょっと下
に拇指球が来るようにしています。
歩行技術 上級編
歩行にせよ、クライミングにせよ、街の行動と違う点は斜面での行動だけではなく、荷物を背負っ
て、しかも長い時間行動することも含まれます。
その為、状況によって歩き方自体も変化を付けると、行動が楽になることがあります。
単軸歩行と二軸歩行
言葉を勝手に作りました。
人間が歩くには二本の足を使いますが、このとき、左右の足が1本の線の上を歩くか、2本の線を
歩くかということです。人間は無意識のうちにこれを行っているのですが、登山ではこれを意識して使
い分けると楽に、あるいは安全に歩けるようになります。
単軸歩行
いわゆる、モデルさんが、一本の軸で歩くことを思い浮かべてください。
バランスを崩すことなく、力強い歩きが可能になります。
コツは爪先を開いて歩くこと。
つま先を軽く開いて、左右のくるぶし部分が一直線上になるように足を運ぶと平地でも、山道でも
上手く歩けるようになり、単軸歩行のメリットを生かすことができます。
メリットは上体が左右に振られることなく、重心移動が可能になります。
常に重心が、左右どちらかの足に載っているため、状態が安定しバランスが崩れにくくなります。
バランスが崩れにくいという事は、体幹が疲れにくく、安定して長時間の行動が可能になります。
山道でバランスが悪い人は総じてこの短軸歩行ができない方です。
登山中に足音が大きい人、静かに足を着地できずバタバタと歩く人は単軸歩行が出来ていない方
です。
このような方は体力に余裕のあるうちはパワーでバランスを保つことができますが、疲れると途端
にバランスを崩しやすくなります。バランスの悪い人は足の運び方が悪いのです。
単軸歩行のススメ
単軸歩行は上述したようにバランスを崩しにくいのですが、メリットはそれだけではありません。
普段から単軸歩行を行うことで、片足に体重を載せる感覚が身に着くため、運動神経系の能力が
向上し、運動能力全体の向上が期待できます。
人間が地上で運動する場合2本の足を使いますが、上半身をそれぞれの足に、あるいは両方の足
に荷重することでその運動は成り立っています。
しっかりと体重が足にのる事で地面の反発力を活かして行動しています。
このことを一番理解しやすいのが「ジャンプ」です。
体を軽く沈めて全体重が足に載った瞬間に、地面を蹴れば大きく飛ぶことができます。
しかし、体を沈めることなく(足を曲げることなく)地面から飛び上がろうとしても、大きく飛べないは
ずです。
体重がしっかりと足に載っている状態。
実はこれが動きの中で当たり前のようにできる方が「運動神経の良い人」であり、当たり前のよう
にできない人が「運動神経の鈍い人」といっても良いでしょう。
登山界において、運動神経の善し悪しが顕著に出るのが「クライミング」です。
クライミングの基本は足で体を押し上げる動きなのですが、登れない人は腕で体を引き上げようと
してしまいます。これは足に載っている感覚が希薄であるため、上に登る意識があると腕で引き上げ
てしまうのです。
足に体重が乗っていることを意識づけるためにも、普段の生活、登山中には単軸歩行をお勧めしま
す。特にクライミングで上達を目指すなら意識した方が良いでしょう。
※普段の生活から行うことが重要です。年齢と共にバランスが悪くなっていると感じている方は是非
歩き方を変えてみましょう。家族で上手く歩けなくなってきている方にもおススメです。
二軸歩行のススメ(メリット)と限界(デメリット)
二軸歩行、すなわち右足と左足が平行に着地する歩行法でもあります。
最も有名なのはナンバ歩きです。
この「ナンバ歩き」が説明される際に、手と足が同時に動く、つまり、「右手と右足が同時に前に動
き、その後左手と左足が同時に前に動くことだ」と、よく言われます。
しかし、これはナンバ歩きを説明し切れておらず、この歩き方の最も重要な二軸歩行については言
及されていません。
ナンバ歩きのメリットは二軸歩行であり、これを前述の単軸歩行と比べれば、「左右どちらかの足で
重心を支えなくても歩ける」といえます。
つまり、足の上まで重心を移動することなく進行方向(前や上方)へ進むことができ、つまり、足の
力(特に膝周り)の筋力に頼ることなく進むことができます。
しかし、二軸歩行はバランスを崩しやすいというデメリットもあります。
足が左右に分かれて着地するため、体重が左右の足に完全に載る事が殆んど無くなります。この
ためバランスを崩しやすく、不整地(ザレ場など)でこれをを行なうと上手く歩けなくなります。
二軸歩行がバランスを崩しやすい例として、「老人の歩き」が挙げられます。
左右に足が分かれて着地する二軸歩行になりがちな為、少しでも足を引っ掛けると転倒に繋がり
やすくなります。
また片足に全体重がのることが無いため、反対の足を前に出す際も足を引きずりがちです。
二軸歩行は以上のようにメリットもありますが、受け入れがたいデメリットもあります。
しかし、登山中は足場が限られるため、常に単軸歩行で歩き続けることはできず、二軸歩行も混ぜ
ながら歩くことになります。
足場が限られて左右の足を置く場所が分かれざるを得ない場合は二軸歩行にならざるを得ませ
ん。
そんな足場が悪い時には二軸歩行のデメリットによる影響、つまりバランスを崩しやすいことに対処
する必要があります。
対策の一つは上半身を使って、意図的に左右に体を動かして方足の上にしっかりと荷重すること。
これはクライミングの動きと同じです。左右の足が離れている時に上半身の動き、さらには腕の力
を使って(実際には反対の足も使って)片足に体重を移動させるものです。
他の対策としてはストックを使う事ですが、これは根本的な解決策ではないので注意が必要です。
単軸歩行を中心とした実際の歩行
人の歩行は片足だけで直立できるからこそ成り立っている運動です。それを最も単純に行えるの
が単軸歩行です。全体重を片足で支える瞬間が作り出されるため、バランスを崩しにくく、筋力、神経
系など運動能力を最大限に生かすことが可能になります。
上述の単軸歩行とは逆になる二軸歩行は人の歩行としては基本とはなりません。
しかし、登山中には二軸歩行にならざるを得ない状況や意図的にそれを行った方が良い場合もあ
ります。
しかしそれでも基本は単軸歩行、オプションで二軸歩行としておいた方が良いでしょう。
単軸歩行は前向きだけでそれを行うと、登山中には動きが制限されやすくなってしまいます。この
ため、横向きや斜め向きを多用することになり、斜面をジグザグに登ると楽になるのは、斜面で単軸
歩行を行いやすくなるためです。
斜面に体が横を向いていた方が上半身の真下に足を置きやすくなり、つまり単軸歩行を行いやすく
なります。
年齢と共にバランスが悪くなるのは二軸歩行になりがちなためです。
登山中にそのようにならないためにも、普段から歩くことを意識してみましょう。
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